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奈良地方裁判所 昭和32年(行モ)2号 決定 1957年12月20日

申立人 奈良県地方労働委員会

被申立人 吉田木材株式会社

主文

被申立人は高原源四郎、東田中正夫、今西奈良造、高田正一、和田山久治、吉田博らに対し、解雇の日から当庁昭和三十二年(行)第六号地方労働委員会命令取消請求事件の判決確定に至るまで別表記載のように解雇当時同人らの受くべかりし給与相当額を支払わなければならない。

申立人のその余の申立を却下する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

本件申立の要旨は

「申立外高原源四郎、東田中正夫、今西奈良造、高田正一、和田山久治、吉田博らは被申立人吉田木材株式会社に雇用され吉田博を除く他の五名は同会社下市工場に於て、又吉田博は同工場に在籍し乍ら同会社高田工場に於て、それぞれ勤労に従事していた工員で、中吉野地区における工場労働者をもつて組織する中吉野工場労働組合の組合員であるが、吉田博を除く他の五名は昭和三十一年八月十八日経営不振のため下市工場を閉鎖するとの理由で、吉田博は同年九月四日同じく被申立人から解雇された。これに対し右労働組合は、右高原ら六名の解雇は、労働組合法第七条第一号第三号に違反する不当労働行為であるとして、同年九月二十九日申立人委員会に対し救済の申立をなしたところ、申立人委員会は、右申立を認容し、昭和三十二年八月九日「被申立人は左記東田中正夫、今西奈良造、高田正一、高原源四郎、和田山久治および吉田博を原職に復帰せしめ、解雇の日から原職復帰に至るまでの間、同人らの受くべかりし賃金相当額を支払わなければならない。被申立人は本命令書交付の日から七日以内に縦七五センチメートル横一メートルの木板に墨汁をもつて「吉田木材株式会社は中吉野工場労働組合の運営に支配介入し、その自主的な組合活動を阻害する言動を行つたことの非を認め、今後は一切斯様な行為を繰り返さないことを誓約する、右奈良県地方労働委員会の命令により表明する」旨明記し、右会社事務所北側の見易い場所にこれを十日間掲示しなければならない。」との命令を発し、その命令書の写を被申立人会社および右労働組合に交付した。被申立人は、右救済命令を不服として、奈良地方裁判所に申立人委員会を被告として右命令の取消を求める行政訴訟(同庁昭和三十二年(行)第六号)を提起し、その訴状は申立人委員会に送達されたのであるが、被申立人会社は、前記救済命令交付後現在に至るもこれを履行しないので、申立人委員会は昭和三十二年八月二十九日公益委員会議においてなした労働組合法第二十七条第七項の規定による緊急命令の申立をなす旨の決定に基き本申立に及んだ」というのである。

よつて考えるに労働組合法第二十七条第七項の緊急命令は、同条第四項の救済命令に対する取消訴訟の係属中使用者が救済命令を任意に履行しないことによる労働者の経済的困窮を除去し、且つその間において予想される団結権の侵害を防止することを主たる目的とするものであるところ、申立人提出に係る疎明資料によれば被申立人会社は右救済命令発布の法律上の根拠なきことを主張し現在に至るまでこれを任意に履行せず、且これを履行する意思が全くないことが認められる、一方前記高原源四郎ら六名は、下市工場が閉鎖された後、他に就職し現在高原源四郎は株式会社森本商店に勤め、日給六百円、東田中正夫は森木材工業株式会社に勤め日給三百六十円、今西奈良造は、菱二木工所に勤め、日給三百五十円、高田正一は高木製材所に勤め、月給三千円、和田山久治は駒谷敏成に雇用され日給四百円、吉田博は筒井菊松に雇用され日給五百円を、夫々支給されているが、一ケ月の中休業の日多く且つ、和田山久治、東田中正夫を除く他の四名は日雇もしくは臨時工として働いて居り解雇当時の生活状況に比較し非常に不安定で窮乏に困惑しており、之に加えていずれも解雇後今日に至るまで生活苦から同人等としては相当程度多額の借財をなしていることが認められるので、前記訴訟の審理には相当の日時を要すべきことが予想される本件においては、その間前記高原源四郎ら六名がこうむるべき経済上の困難を除去するため、茲に申立人委員会のなした前記救済命令の内被申立人に対し、解雇当時、右高原らが受くべかりし別表記載の給与相当額の支払を命ずる部分につき緊急命令を発するのが相当であるといわなければならない。しかしながら原職復帰および謝罪公告の点については、緊急命令の前記性質に照らし、他に特段の事情の認められない限りその必要性がないものと考えられるので、これを却下することとする。

よつて申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条本文第九十五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小西宣治 安井章 吉野衛)

(別表)

氏名

解雇当時の給与(日給)

高原源四郎

五百三十円

東田中正夫

四百五十円

今西奈良造

三百二十円

高田正一

四百八十円

和田山久治

三百円

吉田博

三百三十円

【参考資料】

命令書

申立人 中吉野工場労働組合

被申立人 吉田木材株式会社

右当事者間の奈労委昭和三十一年(不)第五号不当労働行為救済申立事件について、当委員会は昭和三十二年七月三十日第一四五回公益委員会議において、会長公益委員石井政一、公益委員網野秩紀、同鳥居健三、同町野二郎、同森本留治郎、出席合議の結果、次の通り命令する。

主文

一、被申立人は東田中正夫、今西奈良造、高田正一、高原源四郎、和田山久治および吉田博を原職に復帰せしめ、解雇の日から原職復帰に至るまでの間、同人等の受くべかりし賃金相当額を支払わなければならない。

二、被申立人は本命令書交付の日から七日以内に縦七五センチメートル、横一メートルの木板に墨汁をもつて、左記の通り明記し、右会社事務所北外側の見易い場所にこれを十日間掲示しなければならない。

吉田木材株式会社は、中吉野工場労働組合の運営に支配介入し、その自主的な組合活動を阻害する言動を行つたことの非を認め、今後は一切斯様な行為を繰り返さないことを誓約する。

右奈良県地方労働委員会の命令により表明する。

昭和 年 月 日 吉田木材株式会社取締役社長 吉田亀太郎

三、申立人その余の救済申立はこれを棄却する。

理  由<省略>

昭和三十二年八月九日 奈良県地方労働委員会会長 石井政一

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